こんにちは。
自律神経専門の整体サロンnaturaの平山です。
はじめに:「寝ても疲れが取れない」という声
当院には、眠りのお悩みを抱えた方がとても多く来られます。
「布団に入っても、頭が冴えてなかなか寝つけない」
「夜中の2時、3時に目が覚めて、そこから眠れない」
「朝起きた瞬間から、もう疲れている」
肩こりや腰痛で来られた方も、お話を伺うと「実は、眠りも浅くて…」と打ち明けてくださることが少なくありません。体の不調の根っこに睡眠の問題がある、と感じるケースは本当に多いです。
今日は、その「眠れなさ」を、気持ちの問題としてではなく、脳と自律神経の”スイッチ”の問題として見直してみたいと思います。
手がかりにするのは、筑波大学の睡眠学者・柳沢正史教授のお話です。柳沢教授は、私たちを目覚めさせておく脳内物質「オレキシン」を発見したことで世界的に知られる研究者です。
睡眠でお困りの方は一度この動画を見ることをおすすめします。
1. 睡眠は、いまだに「謎」だらけ
意外かもしれませんが、「生き物はなぜ眠るのか」という問いには、まだ科学的な答えが出ていません。
神経系を持つ生き物は、ほぼすべてが眠ります。
眠っている間は無防備で、エサも探せず、天敵に襲われる危険もあります。それでも眠るということは、それだけのリスクを払う価値がある「何か」が睡眠にはある、ということです。
柳沢教授も、睡眠の根本的な目的は今も大きな謎だと語っています。
ただし、眠らないと何が起きるかについては、かなりはっきり分かってきました。
- 徹夜に近い状態(17〜24時間起き続けた状態)では、脳の働きはお酒に酔ったときと同じくらいまで落ちることが報告されています。
- 睡眠不足が慢性化すると、うつなどの心の不調、糖尿病などの代謝の病気、さらには認知症のリスクまで高まることが分かっています。
つまり睡眠は、ただの「休み」ではなく、脳と体を毎晩メンテナンスするための時間なのです。

2. 眠っている間、自律神経は何をしているのか
ここからが、今日いちばんお伝えしたいところです。
自律神経には、活動モードの交感神経と、休息・回復モードの副交感神経があります。この2つは、眠りの深さに合わせて、夜の間に大きく入れ替わっています。
深い眠り(ノンレム睡眠)のとき
副交感神経が優位になります。心拍はゆっくりになり、血圧は下がり、呼吸も深く規則正しくなります。体が「修復モード」に入っている時間です。
夢を見る眠り(レム睡眠)のとき
自律神経が大きく揺れ動きます。心拍や呼吸が不規則になり、交感神経が一時的に高まることもあります。
このサイクルが一晩に4〜5回繰り返されることで、体は回復していきます。深い眠りは、寝入ってから最初の数時間に多く現れます。
逆に言えば、眠りが浅い、途中で何度も目が覚める、ということは、副交感神経が働く「回復の時間」が削られているということです。

当院に来られる中途覚醒の方の体に触れると、首まわりや頭、みぞおちのあたりに、なかなか抜けきらない緊張が残っていることがよくあります。
体のほうが、まだ「活動モード」から降りきれていないような状態です。これはあくまで臨床での実感ですが、睡眠と自律神経が切っても切れない関係にあることを、日々の施術の中で感じています。
3. オレキシン ―「起きている脳」と「交感神経」をつなぐ物質
では、なぜ「疲れているのに眠れない」ということが起きるのでしょうか。
その仕組みを考えるうえで欠かせないのが、柳沢教授らが発見したオレキシンという脳内物質です。オレキシンは脳の視床下部から出て、私たちを「起きている状態」に保つ働きをしています。
そして大事なポイントは、オレキシンが交感神経も高めるということです。つまりオレキシンは、「頭を起こすスイッチ」であると同時に、「体を活動モードにするスイッチ」でもあるのです。
夜になっても覚醒のスイッチがうまく切れないと、体は疲れているのに、頭と体が”オン”のままになる
実際、オレキシンの働きを抑えて眠りを助ける不眠症の治療薬も、医療の現場で使われています。眠れないことは、意志の弱さではなく、脳と神経の仕組みの問題として扱われているのです。
「眠れない自分がだめなんだ」と責める必要はありません。スイッチがうまく切り替わっていないだけかもしれないのです。
4. よくある誤解を、自律神経の視点から見直す
睡眠についての「常識」の中には、正しくないものもあります。
誤解①「夜10時〜2時がゴールデンタイム」
「この時間帯に寝ないと成長ホルモンが出ない」という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし柳沢教授は、特定の時間帯に魔法のような効果があるわけではないと指摘しています。
成長ホルモンが多く出るのは、時刻ではなく寝入ってから最初の深い眠りのときです。大切なのは、一晩を通して眠りが途切れずに続くこと。
ただし、時間帯がまったく関係ないわけではありません。私たちの体には体内時計があり、毎日だいたい同じ時間に眠り、同じ時間に起きるほうが、自律神経のリズムも整いやすくなります。夜勤の方の眠りが浅くなりやすいのは、体内時計とずれた時間に眠らざるをえないためです。
誤解②「平日の寝不足は、週末の寝だめで取り返せる」
残念ながら、睡眠負債は週末の寝だめだけでは返しきれないことが分かっています。
さらに、週末だけ起きる時間が大きくずれると、体内時計が乱れ、月曜日に「時差ぼけ」のような状態になります。体内時計の乱れは、自律神経の切り替えのリズムも乱します。
誤解③「お酒を飲むとよく眠れる」
寝つきが良くなったように感じるため、寝酒を習慣にしている方は少なくありません。当院のお客さまの中にも「飲まないと寝られなくて」という方がいらっしゃいます。
しかし、アルコールは眠りの後半で交感神経を高め、心拍数を上げてしまうことが分かっています。体内でアルコールが分解される時間帯に、体が「活動モード」に引き戻されてしまうのです。
その結果、
- 夜中に目が覚めやすくなる
- 夢を見る眠り(レム睡眠)のリズムが乱れる
- 朝、疲れが残る
ということが起こります。「寝酒」と「中途覚醒」はセットになりやすい、と覚えておいてください。

5.「寝不足」と「眠れない」は、対策が違う
ここで、とても大切なことをお伝えします。
一口に「睡眠の悩み」と言っても、大きく2つのタイプがあります。
① 寝不足タイプ
眠ろうと思えば眠れるのに、仕事や家事、スマホなどで、眠る時間そのものが足りていない。
② 眠れないタイプ
眠る時間は取っているのに、寝つけない、夜中に目が覚める、朝早く目が覚めてしまう。
柳沢教授の「質の前に、まず量」というメッセージは、主に①の寝不足タイプの方に向けたものです。
ところが、②の眠れないタイプの方が「もっと寝なきゃ」と早めに布団に入ると、かえって逆効果になることがあります。
- 布団の中で眠れずに過ごす時間が長くなる
- 脳が「布団=眠れない場所」と覚えてしまう
- 「眠らなきゃ」という焦りで、覚醒のスイッチがさらに入る
という悪循環に陥りやすいのです。当院に来られる方の多くは、こちらのタイプです。
ご自分がどちらに近いかを考えながら、次のチェックリストを見てみてください。
6. 今日からできること
どちらのタイプにも共通する7つの習慣
☐ 起きる時間をそろえる
寝る時間より、起きる時間を優先。休日も平日との差は1〜2時間以内に。
☐ 朝起きたら、カーテンを開けて光を浴びる
朝の光が体内時計をリセットし、夜の自然な眠気をつくります。夜の眠りは朝から始まっています。
☐ 寝る1時間前から、照明とスマホの光を減らす
明るい光は、脳に「まだ昼だ」と伝えてしまいます。
☐ 毎晩同じ順番の「入眠儀式」をつくる
例:お風呂 → 照明を落とす → ストレッチ → 歯みがき → 布団へ。内容より「毎晩同じ順番」が大切です。
☐ 入浴は寝る1〜2時間前に、ぬるめのお湯で
上がった体温が下がっていくときに、眠気が訪れやすくなります。
☐ 布団の中では、吐く息を長くする
吸う息より吐く息を長くする呼吸は、副交感神経に働きかけやすいとされています。
☐ 寝酒は控えめに
いきなりやめなくても大丈夫。量を減らす、夕食時に移すなど、少しずつで。

寝不足タイプの方へ
☐ まずは眠る時間を確保する
寝る時刻を30分早めるだけでも、立派な一歩です。
眠れないタイプの方へ
☐ 眠くなってから布団に入る
「何時だから寝なきゃ」ではなく、眠気が来てから。早めに布団に入る必要はありません。
☐ 眠れないときは、いったん布団を出る
目安として20分ほど眠れなければ、暗めの部屋で静かに過ごし、眠くなったら戻る。脳が「布団=眠る場所」と覚え直していきます。
☐ 時計を見ない
「あと〇時間しか眠れない」という焦りが、覚醒のスイッチを入れてしまいます。時計は見えない場所に。
☐ 昼寝は午後3時までに、20分以内
長い昼寝は、夜の眠気を奪ってしまいます。

7. 中途覚醒には、見落としやすい原因も
夜中に目が覚める方は、次のような原因が隠れていないかも振り返ってみてください。
- トイレで目が覚める(夜間頻尿)
- 足がむずむずして、じっとしていられない(むずむず脚症候群)
- ほてりや寝汗で目が覚める(更年期の症状)
- 体の痛みで目が覚める
- いびきが大きい、眠っている間に呼吸が止まっていると言われる(睡眠時無呼吸症候群)
これらは、それぞれに合った治療で改善することがあります。思い当たる場合は、医療機関にご相談ください。
また、年齢を重ねると、眠りが浅くなり、夜中に目が覚めやすくなるのは、ある程度自然な変化です。若いころと同じように朝まで一度も起きずに眠れなくても、日中に元気に過ごせているなら、過度に心配する必要はありません。
「目が覚めても大丈夫」と知るだけで、かえって眠りやすくなる方もいらっしゃいます。
8. それでも眠りが整わないとき ― 医療と整体の役割
まずは医療機関へ
次のような場合は、まず医療機関(睡眠外来や心療内科など)にご相談ください。
- 眠れない状態が1か月以上続いている
- 日中の強い眠気で、生活や仕事に支障が出ている
- いびきや無呼吸を指摘されている
- 気分の落ち込みが続いている
慢性的な不眠の治療では、睡眠薬だけでなく、不眠症の認知行動療法(CBT-I)という方法が、国内外の指針で第一に勧められています。眠りに対する考え方や習慣を少しずつ整えていく治療法で、薬に頼りたくない方にも選択肢があります。
整体ができること
眠りのお悩みで当院に来られる方の体に触れると、
- 首の付け根や後頭部が固く張っている
- 頭全体がきゅっと締めつけられたように緊張している
- みぞおちや肋骨まわりが固く、呼吸が浅い
といった状態がよく見られます。体が、ずっと「身構えた」まま夜を迎えているような印象です。
当院では、強く押したり揉んだりせず、やさしく触れる施術で、こうした緊張がゆるむのを助けていきます。施術中にうとうとされる方も多く、「その夜はよく眠れた気がする」と話してくださる方もいらっしゃいます。
ただ、正直にお伝えしておきたいことがあります。
整体は、睡眠の土台そのものを作るものではありません。
起きる時間、朝の光、寝る前の習慣といった生活の土台があってこそ、施術は「スイッチを切り替えやすくする後押し」として働きます。施術だけで眠りの悩みが解決する、とお約束することはできません。
医療と並行して、体の緊張をゆるめたい。そんな方の力になれれば幸いです。
よくあるご質問
Q. 睡眠と自律神経には、どんな関係がありますか?
A. 深い眠りの間は副交感神経が優位になり、体が回復モードに入ります。眠りが浅かったり途中で何度も目が覚めたりすると、この回復の時間が削られます。反対に、自律神経が活動モードのまま夜を迎えると、寝つきが悪くなり、中途覚醒も起きやすくなります。
Q. 眠れないときは、早く布団に入ったほうがいいですか?
A. 寝つけない、夜中に目が覚めるといった「眠れないタイプ」の方は、早く布団に入るとかえって眠れない時間が増え、逆効果になることがあります。眠くなってから布団に入り、起きる時間をそろえることを優先しましょう。
Q. 年齢とともに夜中に目が覚めるようになりました。病気でしょうか?
A. 年齢とともに眠りが浅くなり、目が覚めやすくなるのはある程度自然な変化です。日中に元気に過ごせていれば、過度に心配する必要はありません。ただし、頻尿や足のむずむず、いびきなどがある場合は、医療機関にご相談ください。
まとめ
- 睡眠は、脳と体を毎晩メンテナンスするための大切な時間
- 眠っている間、自律神経は「回復モード」に切り替わっている
- 覚醒の物質オレキシンは、交感神経を高めるスイッチでもある
- 「寝不足」と「眠れない」は対策が違う。眠れない人は、早く布団に入らなくていい
- どちらのタイプも、起きる時間をそろえ、朝の光を浴びることが土台
- 中途覚醒には、頻尿や更年期など見落としやすい原因もある
- 慢性的な不眠には、医療機関での治療(認知行動療法など)がある
- 整体は、生活の土台の上で、切り替えを後押しするもの
柳沢教授は、睡眠を「神様からのギフト」と表現しています。眠れない夜が続くと、眠りが敵のように感じられるかもしれません。でも本来、眠りはあなたの心と体を毎晩守ってくれる味方です。
「眠れない自分」を責めるのではなく、スイッチを切り替えやすい環境を、少しずつ整えていきましょう。




















